神武景気の頃、後に遊技機メーカー「藤商事」を創業する藤原満州夫氏が、当時流行していたパチンコと麻雀を融合させた新たなアミューズメントマシン『じゃん球遊技機』を開発。1957年に第1弾を名古屋市のパチンコホールに導入するとともに、58年、大阪府布施市(現・大阪府東大阪市)にて藤商事を設立。代表取締役社長には、卓越した経営センスとリーダーシップが見込まれて、パートナーである松元道子氏が就任した。
一方で、1961年からの10年間で展開された政策「国民所得倍増計画」の好影響のもと、パチンコも庶民の娯楽として定着。松元社長が期待以上の活躍を見せるなか、『じゃん球遊技機』のシェアも拡大し、1966年10月には、事業発展に伴い「株式会社藤商事」として新たなスタートを切った。そして1970年に開催された大阪万博の翌年、世間の麻雀ブームに乗じる形で『じゃん球遊技機』が大ヒットを記録(同社のシェアは80%超えに)。1973年には新規事業として、パチンコとビンゴゲームを融合させた『アレンジボール』の開発・製造をスタートさせ、同ジャンルでもヒット機種を連発。同時に、企業としての成長を視野に社内体制の改善に力を入れた。
1980年代に入り、フィーバー機(パチンコ)の登場で遊技業界全体が活気付くなか、企業の業績もこれに比例して上昇。安定志向へとシフトするかと思いきや、藤商事の挑戦はとどまることを知らなかった。当時専務であった松元邦夫氏は、かねて「うちの遊技機をパチンコホールの真ん中で勝負させたい」と主張していたが、1987年、ついにパチンコ機の開発に着手。1989年、同社第1弾となるパチンコが市場デビューを飾った。
1990年代にパチンコメーカーとしての実績を着実に積み上げ、2000年には松元邦夫氏が社長に就任。その翌年、本社を大阪市中央区に移転し、パチスロ機の開発も始動させた。そして2007年2月、創造型企業として「ヒト味違う」商品開発を追求するなか、藤商事はジャスダック証券取引所に上場した。
同社が重視したのは、信頼される企業としての体制をさらに充実させること。上場の翌年に行ったインタビューで当時総務部長であった松下氏は「上場は、信頼される企業として何事もまじめにきっちり取り組んでいくという意思表示の1つ。大袈裟なことではなく、社員が遣り甲斐を持って働ける職場になれば、そこから生み出される商品の価値も自然と高まる。そうなれば、商品を購入されるお客様、商品で遊んで下さるファンの満足も向上する。そういう当たり前を実現するための上場だ」と語っていた。
なお、初代社長の松元道子氏が、アレンジボールの認可を受けるために保通協に日参し、毎日掃除をして話をする機会を得たエピソードは古くから業界を知る人々の間で伝説のように語られてきたが、そのバイタリティーは現在も同社の精神として引き継がれている。
そして今年、入社当初から初代社長の薫陶を受けた生え抜きの松下智人氏が代表取締役社長に就任した。青春時代から37年間を同社一筋で過ごした新社長が描く藤商事の未来図はどのようなものなのか。松下氏の言葉から、“挑戦し続ける藤商事”の今後にアプローチしてみたい。
“ファンファースト”をいま、改めて掲げる
今年、藤商事は創業60周年を迎える。その節目となる2026年4月、松下智人氏が同社の代表取締役社長に就任した。入社から37年、藤商事一筋の生え抜きが、満を持してトップの座についた。
社長就任の思いを聞いたところ、開口一番「ファンファースト」という言葉が出た。簡潔に言えば「ファンのことを一番に考える」という意味だが、ここでいう“ファン”とは、いわゆる支持者や愛好家とは少しニュアンスが異なるようだ。
松下氏はさらに、「弊社は今年、創立60周年を迎える。事業活動の軸となる企業理念や社是の考え方に変わりはないが、100年企業に向けて次の10年を進んでいけるよう、社長就任を機に“新たな使命”を設定した」と続けた。
それについて語る前に、まず同社の企業理念と社是を確認しておきたい。企業理念は「お客様の繁栄を売ろう~より良い稼働 より高い信頼~」、社是はこうだ。「我が社はパチンコの機械を売るのではない。パチンコ店の繁栄を売るのです。顧客が欲しいのは商品ではない。商品の持っている働きです。お客様は何を我が社に求めているか。我が社の商品やサービスのどこに不満を持っているのか。お客様の好みはどう変わってゆくのか。お客様の要求を満たすには我が社は何をしなければならないか」。
この思考をベースに、今回新たに「ALL HAPPY!~商品やサービスを通じてファンに幸せを届けよう~」を使命に据えたという。
ここにも記されている“ファン”だが、この言葉は「同社に関わるすべての人々」、具体的には遊技する人(パチンコ・パチスロプレイヤー)、パチンコホール、株主、協力会社、地域社会、共に働く仲間たちを指す。つまり、ステークホルダーのエンゲージメントの輪の中で“ハッピーサイクル”を回していくという発想だ。この使命に即して、目指すべき将来像も、これまでの「市場を牽引するメーカー」から「ファンから最も支持されるメーカー」へとシフトした。
“ヒト味違う”アイデアを武器に「設置台数シェア10%以上」を目指す
藤商事の前期を振り返ると、重点事項としていた“ブランド力の向上”に関しては、「LT3.0プラスを最速で市場投入できたこと」「他社に先駆けてBIGスタートを定着できたこと」「新一発機という新たなジャンルを確立できたこと」「スタート安定化装置(SSシステム)のトレンドを創出できたこと」を背景に、藤商事というメーカーとしてのブランド力が高まりを見せる中、パチンコ機の設置台数シェアも上昇傾向を見せた。
確かに、『ぱちんこ女神のカフェテラス』の高稼働は、“BIGスタート=藤商事”というイメージ浸透に寄与し、『貞子』や『地獄少女』で新一発機という新たなジャンルを確立するとともに、SSシステムを搭載した『地獄少女』では“回るパチンコ”というトレンドを創出した。
振り返れば、藤商事がプロデュースした“業界初”は少なくない。主要な例を挙げると、『アレンジ』『エキサイト』に始まり、サブ基盤とメイン基盤を分離する“インテリジェント化”を実現した『CRチューミーハウス』、チャンスボタンを枠内に初めて搭載した『CRダイナミックショット』、継続型特殊ボーナスのGT機能を採用した『CR渡り鳥アキラ』等、市場で主流となった機能を先駆けて開発している。
他方、2000年以降に開発をスタートさせたパチスロに関しても、“パチンコに負けないパチスロを作りたい”との強い思いから、2機種目の『サンダーバード3』で約2万台の受注を受けて以降、『リング』や『ゴブリンスレーヤー』をはじめ、顧客目線の開発でパチスロメーカーとしての実績を着実に築いてきた。ただ前期に関しては、妥協を許さない“攻めの姿勢”ゆえに予定していた全タイトルの市場投入とはいかなかったものの、すべての経験を糧に新規性・独創性のある商品開発を追求。今期は市場投入機種数も増やしていくという。
また今期は、稼働と台数シェアを伸ばしていくだけでなく、そこに期待感という概念を追加。はじめに、プロモーションや広報活動などの取り組みでファンからの興味・関心を集め、同社への期待を高める。そして、この期待感を稼働に繋げ、実績を残すことで販売台数を増やしていく。この循環で最終的にファンの信頼を獲得し、信頼を積み重ねていくことで同社の存在感や影響力を高め、「ファンから最も支持されるメーカー」を目指していくという。なお、中期的には4円パチンコ・20円パチスロともに設置台数シェア10%超を目指すとしている。
「遊技機メーカーは製造業だが、アイデア勝負の創造型企業。そのため、あらゆる部署の社員の意見交換を促し、全社員で商品をプロデュースしていく環境整備にも注力している」と松下氏。唯一無二、オンリーワンメーカーという自負のもと、全社員が一丸となってコーポレートスローガン「ヒト味違う発想で、一歩先の“オモシロ”さを目指して」を体現し続けている。
“利他の心”でハッピーサイクルを回していく
前段で触れた「ファンから最も支持されるメーカー」という目標の実現に向け、藤商事は「ファンの気持ちになろう」「失敗を恐れず挑戦を続けよう」「善き人であれ」の3つを行動指針に掲げた。
まず、「ファンの気持ちになろう」では、ファン満足を導くために彼らの思考、気持ちを解明し、ファン目線でのモノ・コトづくりを推進。「失敗を恐れず挑戦を続けよう」では、スピード感を持った変化への対応や困難な課題を楽しむスタンスで日々挑戦し続ける重要性を指摘。最後に「善き人であれ」では、藤商事らしさとして根付いている“人を大切にする”精神に言及。ここでは、利他の心で、働く仲間や取引先を大事にし、相互扶助の推進でハッピーサイクルを回していく重要性に触れている。
また主文の冒頭で掲げた“ファンファースト”の価値観に基づき、「人材育成」「DXの推進」「適正利益の確保」を重点ポイントに設定。「人材育成に関しては、世代別研修やキャリアプラス制度、フレックス制度の導入拡大など、従業員の成長を促す仕組みやイキイキと働き続けられる環境整備を進めるなか、前述の行動指針に沿ってさらにこれを推進し、各部門・各部が求める人物像に応じた育成支援に取り組んでいく。
一方で、あらゆる部署の社員の意見交換を促し、全社員で商品をプロデュースしていく環境整備にも注力。社員1人ひとりが商品リリースに携わることで、社員のモチベーション向上を図っている。ちなみに現在、「開発・営業・製造・管理部門が連携し、強固なチームワークのもと会社を運営していける非常に頼もしい状況にある」(松下氏)とのこと。
「DXの推進」では、世の中の変化に呼応するために、デジタル化やAIの活用でファンが幸せになるような新しいビジネスモデルやサービスの創出を、全社横断のプロジェクトとして立ち上げた。開発部門や製造設備のAI化をはじめ、業務効率化を各部署が進めており、“人の力を最大限に活かす”方向で業務効率を上げ、より「やり甲斐」「働き甲斐」のある企業へと成長すべく進化しつつある。
最後に、「適正利益の確保」だが、これは“ファンファースト”の価値観を持って、前掲の2点の推進により実現できると説明。「“お客様の繁栄を売ろう”という言葉を最初に提唱したのは、創業者である藤原満州夫氏。単に遊技機を提供するだけでなく、収益や幸福を届けようと全社員に呼びかけたメッセージだと聞き及ぶ。この思いの実現には、ファンの支持は必須となる。だからこそ、繰り返すが“ファンファースト”という価値観が企業運営の軸となる。全従業員がそれぞれの立場で、常にファンを第一に考えたモノ・コトづくりを意識し行動すれば、必ずファンから最も支持されるメーカーになれる。そうなれば、100年どころか1000年でも続けられる企業になる」と松下氏。
その確信を背景に、全社員がファンのために自ら考え、実行でき得る環境や仕組みづくりが進められている。
“タブーなき構造改革”を全方位から推し進める時期
最後に、遊技産業という視点で考えを聞いてみた。ホール数も参加人口も減少した現在の市場。とりわけ「パチンコ市場の低迷」はここ数年にわたる業界課題として横たわる。そのような現状で、松下氏は「ファン人口を増やす施策が重要」と話す。
企業の取り組みを語る際に繰り返し強調してきた“ファンファースト”。その“ファン”の中で、大きな柱の1つとなるのが当然ながら遊技参加者(パチンコ・パチスロプレイヤー)だ。松下氏は、産業活性化の視点でも、この“ファンファースト”の価値観が効果を発揮すると考える。
松下氏は「プレイヤーが減っている現状を分析したところ、やはり今のパチンコ機に関して、“回らない”“勝てない”という状況が、ネガティブ要因として確認できている。そこにメスを入れる機械づくりが重要」と指摘。また、日工組の一般向けイベント等を通じて「打ってみたら意外と面白い」というような声が確認されていることに触れ、「その感触を大切にし、藤商事としてはアニメとパチンコの親和性を背景に、これらを連動させていく多種多様な施策を考えている。また、各社でやっているが、ホールに足を運ぶのに躊躇する層に向けて、無料でゲームの面白さを体験してもらえる一般試打会や、アニメのコンテンツ支持者に向けたファンミーティングなどの開催を強化して、参加人口増加に繋げたい」と、新規顧客の開拓に意欲を見せた。
他方、参加人口およびホール数減少の別要因として、「実際のところ、ホール企業の経営事業が厳しくなっている背景で、1円パチンコが良くも悪くもホールの経営環境を圧迫している。これにより“来店客数は維持できるが、利益が取れない状況”がもたらされるというマイナススパイラルが起こっている。これがここ5年以上続くトレンドだ」と指摘。これに対する遊技機要因について、「プレイヤーニーズが多様化する中にあって、パチンコは“高射幸性”と“甘デジ”というレンジの二極化という、選択肢が2つしかない状況にある」と説き、このカテゴリを少なくとも4つに拡げ、顧客満足を導いていく必要性を訴えた。
具体的には、プレイヤーがそれぞれの懐事情や気分に合わせて安心して遊技ができるようにする。これにより適切遊技を促してファン満足を高めていくことが重要だとし、「これは遊び方の多様化も視野に入れた話。また現在、多くのホールで遊技機の島構成が確率で分けられているが、その確率と体感にギャップがある現状。ここの是正も含めて、安心して遊べる環境を作ることが大切だと思う」と持論を展開。「確率と体感が異なる現実は、プレイヤーを裏切っていることになっている。これも参加人口の減少に繋がっていると考える」と語気を強めた。
遊技機の開発環境について俯瞰すると、2018年に依存防止を名目に行われた遊技機規則の改正で、射幸性の抑制が依存防止に資するとのエビデンスがないにもかかわらず、射幸性もゲーム性も産業の維持を脅かすレベルにまで大幅に狭められた。そのようななか、メーカー組合は適正なレベルにおける遊技性の拡大を中心に行政との折衝を進めてきた経緯がある。その結果、現在の遊技機の二極化、プレイヤーの二極化を招いたということだ。
この二極化をまず、“ファンファースト”の視点に基づき、スペックやゲーム性の部分で解消し、加えて、プレイヤーの体感に合わせたカテゴリ分けをメーカー側から提案することで、プレイヤーが安心して遊技できる環境を構築する。そうすれば、遊技機を通じたプレイヤーとの信頼関係が築かれ、自ずと参加人口も増え、参加しやすい環境が新規顧客開拓にも繋がっていく。そんなハッピーサイクルをここでも回していこうという同社の思いが透けて見える。
松下氏は「もちろん、ホール経営を圧迫している大きな要因に遊技機価格の高騰もある」と、現実から目を逸らさない。その解消に向けて、旧態依然の開発環境や検査体制の“時代に合わせた改善”の必要性を指摘する。
「ホール営業を通じてプレイヤーに遊技機の魅力を伝えることができるよう、それにより参加人口が拡大し市場が活性化するためにも、開発や検査にかかるコストの見直しは重要。遊技機開発に関してはガラパゴスな環境からの脱却は必須で、そこを理由に部品の調達も難しくなる(調達に掛かる経費が膨大になる)なか、時代に合わせた修正を含めて、過剰に膨らんだコストを適正なレベルに抑える努力をしていかなければならないと思う」と松下氏。
「パチンコ・パチスロは日本独自の娯楽文化であり、多くの人々に支えられて成長を遂げてきた。“ファンファースト”の視点からも、この遊技産業が持続可能な形で発展していけるように、“タブーなき構造改革”をあらゆる角度から推し進めていかなければならないと思う」と、前を見据えた。

松下智人(まつした・ともと)。1971年2月生まれのAB型、兵庫県出身。同社のアレパチ「シャトル21」との出会いを契機にパチンコのゲーム性に興味を持ち“遊技機をプロデュースする職業に就きたい”と1989年3月、藤商事に入社した。入社当初は経理・総務の業務に従事し、2007年2月の上場では準備責任者として尽力するなか、同年4月に管理本部総務部長に就任、そして16年4月には執行役員開発本部長に就任し入社当時の念願を叶えた。2019年にグループ企業のオレンジ代表取締役社長、21年にJFJ代表取締役社長に就任するなど要職を歴任。2022年取締役専務執行役員として開発本部、経営管理本部を担当した後、25年の代表取締役専務執行役員を経て、26年4月に代表取締役社長に就任した。自他が認める愛犬家で、趣味はパチンコ・パチスロ、そして読書。座右の銘は「継続は力なり」。

































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