CSV(Creating Shared Value;共有価値の創出)は、企業の競争戦略論の第一人者として知られるアメリカの経営学者、マイケル・ポーター米ハーバード大学教授が提唱した概念で、CSRの概念をビジネスの視点で見直し、「経営戦略の1つとして本業に即した形で社会的課題を解決する取組みを行っていくべきだ」とするもの。
ポーター教授は「社会との共有価値を創出する3つの方法」―①製品と市場を見直す、②自社のバリューチェーンの生産性を再定義する、③企業が拠点を置く地域を支援する産業クラスター(集積)をつくる―を提案。また、企業の社会的な問題への関与には、これまで2つの段階があったが、企業は次の3番目の段階に進む必要があるとした。
現在、企業を取り巻く環境はCSRと呼ぶべき第2段階に入っており、社会的な問題が企業の責任として捉えられるようになったが、それは企業の事業活動とはリンクしていない。企業は第3の段階「価値を共有する段階」に移行する必要があり、この段階では企業の事業戦略と社会を結び付ける。社会問題を企業の事業活動と切り離して別の課題として見るのではなく、事業戦略と一体のものとして扱うことになる。
例えば、まず企業を取り巻くさまざまな社会問題を拾い出すことから始める。そこで拾い上げた課題に対し、自社の強みを活かせる分野を検討する。そのためには、前提として自社の強みを的確に把握する必要があるが、遊技機メーカー、パチンコホール等のSWOT分析はどの企業でも容易に着手できるため問題はないだろう。
自社が持つポテンシャルを武器に拾い上げた社会課題と向き合えば、本業を活かした経営戦略としてのCSRの形が見えてくるはずだ。なお、この作業はトップダウンではなく、社員に考える場を与え、アイデアを募ることで企業理念を自然に伝えるメリットをもたらし、新たな発想で事業活動を活発化させる契機となる可能性がある。
CSRの概念が浸透しつつあるとはいえ、CSRが単なる社会貢献ではないことを理解する企業は少ない。だから「業況が厳しいのにできない」という言葉も発せられることになる。だが、このCSVの概念ならどうだろう。取り組むことが自社および産業の持続可能な成長に密接に結びつくと思えば、そういう発想は導かれないはずだ。
今後、日本そして各々の地域が直面する社会問題に、パチンコホール、遊技機メーカーや関連企業、そして業界団体が本業を通じた独自のアプローチを仕掛けることで、社会的認知のクオリティも自ずと向上していく。消極的な存在意義の担保から脱却し「社会に必要な産業」へと階段を上るためにも、この概念を企業および産業活動に役立てていただきたいと思う。
(氷室あずさ)
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